本学と住友理工株式会社(本社:名古屋市中村区、代表取締役 執行役員社長:清水和志)は、天然ゴムに含まれる成分の材料特性を分析した結果、天然ゴムの特性予測・改良技術に向けた指針を得ることに成功しました。今回の知見を発展させることで、将来的に天然ゴムの性能・機能を人工的にデザインすることが期待されます。本研究成果は、英国の総合科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されましたので、お知らせいたします。
1 研究成果
(1) 研究背景
天然ゴムは、植物由来のラテックスと呼ばれる原料から製造され、柔軟性や耐久性などの優れた特性をもちます。ゴム材料は、天然ゴムと合成ゴムに大別され、天然ゴムは「非ゴム成分※1」を含んでいる点が、これらの特性の違いを生む原因であると考えられています(図1)。しかし、非ゴム成分は数百種以上と多岐に渡るため、特性の予測・改良に全ての成分を考慮することは現実的ではありません。そこで、どの成分が特性とより強い相関を持つのか明らかにすることが、特性予測・改良手法への応用に重要となります。このような非ゴム成分の特性への影響の解明と、天然ゴム製品の性能向上を目指し、共同研究を実施しています。
(2) 研究成果
本研究は、非ゴム成分である代謝物※2を幅広く分析するオミックス技術※3を応用しました。採取シーズンである5月から1月の間、毎月のラテックスに含まれる代謝物を網羅的に分析しました。それらの分析値と天然ゴム加工後の特性値を組み合わせた解析を行なった結果、各特性を制御するために考慮すべき代謝物数の指針が得られました。具体的には、数百種以上検出された代謝物から、各特性について5種程度の代謝物を選択することで、特性値の変化を確認することができました(図2)。本研究成果として、従来は試作をしなければ明らかにできなかった特性が、今後はデータを活用した予測によって天然ゴムのポテンシャルを一層引き出せる可能性を示唆しています。今回の知見を発展させることで、将来的に天然ゴムの性能・機能を超える物質を人工的にデザインできることが期待されます。
図1.天然ゴムと合成ゴムの違い
2 論文情報
題目: Unveiling the effects of metabolites on the material properties of natural rubber by the integration of metabolomics and material characteristics
著者: Nobuyuki Hiraoka, Shunsuke Imai, Shintaro Shioyama, Fuminori Yoneyama, Akio Mase and Yuko Makita
雑誌: Scientific Reports
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-025-91631-7
掲載日: 2025年4月15日付(イギリス現地時間)
発表者: 平岡 信之(住友理工株式会社)
蒔田 由布子(前橋工科大学 生命工学領域 教授)
※1 代謝物とは、アミノ酸や脂肪酸といった生物が生命維持のために合成する化合物の呼称。天然ゴムの非ゴム成分にも様々な代謝物が含まれている。
※2 非ゴム成分とは、ゴムに含まれない成分や物質。天然ゴムに含まれる非ゴム成分として、タンパク質やミネラルなどが挙げられる。
※3 オミックス技術とは、生物が利用する様々な分子の網羅的分析に用いられる技術。オミックス(Omics)は、ギリシャ語で「全て」を意味する接尾語"ome"と「学問」を意味する接尾語"-ics"を合成した語とされる。