パン、酒類、味噌、醤油は、微生物である酵母の働きで作られる発酵食品です。発酵食品を作る微生物、酵母や酵母の遺伝子を研究し、よりよい製品を作るお役立ちをしたいと思っています。酵母は、微生物ですが、ヒトと同じ真核生物で、哺乳類のオスメスに似た「接合性」があります。この接合性を利用して、優良な酵母菌株を育種して、高品質な発酵食品製造に寄与することをめざしています。
接合性を利用して、優良な酵母菌株を育種した具体例として、デキストリンを分解できるビール酵母株を育種しました。通常のビール酵母株は、グルコース、マルトース(グルコースが2分子結合した二糖)、マルトトリオース(グルコースが3分子結合した三糖)までは利用することができますが、グルコースが4分子以上結合したデキストリンを利用することはできませんでした。本研究室では、デキストリンを分解できる酵素グルコアミラーゼを分泌する酵母株と、マルトースを利用できる酵母株を接合させることで、グルコアミラーゼを分泌する新規のビール酵母株を育種しました。接合によって育種された新規のビール酵母株は、これまでのビール酵母が分解することができなかったデキストリンを分解できることが確認されました。
これまでになかった発酵微生物の育種、発酵食品を製造される際に、品質を低下させる可能性がある汚染微生物の同定、検出法の開発等で、産学連携ができると期待しています。「主な研究成果」で示した、酵母の接合育種は、真核生物の自然現象であり、これを利用して育種された酵母株は、いわゆる「遺伝子組換え体」には該当しません。安全安心な育種株といえます。