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二つの眼球を顔前に持つヒト、サル、ネコといった動物は、対象物を二つの眼を同時に用いてとらえます。右目(緑色)の網膜神経節細胞の一部は、同側半球の外側膝状体 (LGN) へ、残りは視交叉を越えて反対半球のLGNへ投射します。LGNにおいては、それぞれの眼球由来の視覚信号はそれぞれ別々な層に存在する神経細胞に受け渡されます。従って、LGNの個々の神経細胞は、どちらかの眼一方の入力を受けていることになります。LGNの神経細胞は視覚野(第一次視覚野、Visual Cortex)へ投射しますが、視覚野の入力層(第4層)では、その状況は変わらず、左右の眼球由来の視覚入力は乖離して、眼優位カラムという構造を形成しています。第4層の神経細胞から2〜3層、さらに5〜6層の神経細胞へ信号が送られる過程で両眼由来の視覚信号は一つの神経細胞へ統合され、両眼からの情報が処理されることになります。


 

生後発達初期の感受性期(臨界期)と呼ばれる時期に眼瞼縫合等により片方の眼の使用を実験的に遮断する(単眼遮蔽)と遮断された眼の視覚野における支配領域は退行し、正常に視体験をした眼の支配領域が拡大することが知られており、眼優位可塑性と呼ばれています。また、眼筋の切断等により斜視が生じた際には、両眼性細胞(オレンジで示された部分)が消失して、視覚野の細胞は、左右どちらかの眼からの入力のみを受け取るように変化します(第4層の構造が視覚野の全層に広がったような状体)。左の図には、左目を遮蔽した場合(L-Monoc. Dep.)と斜視にした場合(Squint)の視覚野の構造変化が模式的に図示されています。


下図には、一つの視覚野の神経細胞上で起こっていると考えられているシナプス結合の変化が示されています。すなわち、本来右(緑)と左(ピンク)両方の眼由来の視覚入力を受けている両眼性細胞 (Binocular Cell)は、単眼遮蔽によって、正常な眼(この例では緑)からの視覚入力を主に受け取るように変化して、遮蔽された眼(この例ではピンク)のシナプス入力は退行して少なくなってしまうということです。


このような眼優位性の変化は、右図のように視覚野の神経細胞の活動を微小電極により記録して、一つ一つの細胞がどちらの眼に反応するかを調べることによって明らかになります。すなわち、正常な動物ではたくさんの細胞は両方の眼にあたえられた視覚刺激に反応する(中断図左下のヒストグラム、黄色、すなわち両方の眼に反応する細胞が多い)のに対して、遮蔽された動物では使用されなかった眼に反応する細胞は姿を消して、ほとんどの細胞は、正常に視体験をした眼に反応する(中断図右下のヒストグラム、緑色、すなわち正常眼の刺激にのみ選択的に反応する細胞が顕著)ことになります。
 





第一次視覚野の神経細胞の視覚応答(特に、眼優位性という性質)が解明された。(Hubel & Wiesel, 1963)
眼優位性という計測可能な指標に基づいて、可塑性を評価する手法が確立された。(Kasamatsu & Pettigrew, 1976)
その後、この大脳皮質のシナプス可塑性の評価法を用いて、その細胞メカニズムや分子メカニズムに関する多くの研究が行われた。可塑的変化が生じる大脳視覚野に薬剤を注入して、単眼遮蔽の効果が減少するか、増大するかを調べたり、最近は、特定の遺伝子が欠損した所謂遺伝子ノックアウトマウスを用いて、その遺伝子と可塑性の関係を調べる事ができるようになった。
しかし、ネコやサルといった両眼性動物の遺伝子ノックアウトは、現時点では困難であり、また、マウスは、元来視覚にそれほど依存することなく生き延びてきた種であり、両眼視能が十分発達しておらず、生理学的にいう所謂「典型動物」ではない。本来の眼優位可塑性の定義にそって、ノックアウトマウスにおいて眼優位可塑性のメカニズムに関する実験を行うためには、注意深い実験計画が必要である。
単一神経細胞の活動を電気生理学的に記録することによる従来の可塑性評価法以外に信頼のおける可塑性評価法を確立することが重要であり、それが本研究室の研究目標の一つである。
現在のリハビリテーションの基礎は、脳、神経の可塑性に置かれている。
シナプス可塑性のメカニズムを研究し、それを増強することによって新たな機能回復学の確立を目指すことができるのではないか?


受容野プロット





文科省の委託業務「PETを用いた緑内障の早期診断法の確立および神経保護薬による治療法の開発」として以下のような研究を進めています。
サル緑内障モデルを用いて脳機能変化をPETを用いた分子イメージング法により検討することによって、正常眼圧緑内障の早期発見を可能とする新規診断法を確立するとともに、各種神経保護薬から候補治療薬を探索し、開発した診断法により、その効果を検定することを目的とする。
このため、独立行政法人理化学研究所分子イメージング研究プログラムとの連携のもと、岐阜薬科大学および前橋工科大学と共同で業務を行う。
前橋工科大学では、PETイメージング試験後、モデルサルの視覚中枢における分子発現の変化について、神経科学的手法を用いて明らかにすることにより、PETデータ、神経保護薬の効果について評価する。
緑内障は眼圧上昇、またはその他の要因により視神経障害をきたし、視野狭窄・欠損が生じる疾患で、我が国の中途失明原因の第一位にあげられています。
40歳以上の17人に1人が罹患しているとされ、推定患者数は400万人を越えると推定されています。超高齢化社会を迎えた我が国において、緑内障による失明を克服することができれば、その経済効果は計り知れないものがあります。




   
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