存在するあらゆる物の基本構造やその動きを追っかける物理学者は,もう随分以前から、ハイゼンベルグの不確性定理を受け入れている。私たちは自分らの観察・計測行為そのものが測ろうとする対象物の存在状況を変える事も知っている。とすれば、現代科学研究のスポンサーである一般大衆や投資家からの絶えざる期待とそれに応える努力は別として、どうして科学者一般は自分たちの計測値の確かさを追い続け、そこから引き出される結論・報告の妥当性に入れあげるのであろうか?

私たち研究者の日常を振り返ると、仕事上の不確かさは、どちらかと云えば、物理学上の原理的不確かさに由来すると云うよりは、むしろ単純に、自分たちの追っかける研究対象についての基本的知識があまりにも欠けている点による、と思われる。言い換えれば、分析しようとする問題の複雑さにたじろいでいるのが現実である。つまり、取り付く島がない、本来の意味での作業仮説への熱が高まるのも当然である。

更には、科学者の間で、あるいは科学者から大衆にむけて、の何れの場合でも、研究成果を他人に伝えるには最終的には言葉に頼らねばならない。これは大きな制約である。数字・方程式と論理記号に頼りきれない分だけ、余計に言葉を頼むことになる。言葉を操って、積み上げた観察や実験データの解釈がどれ程妥当か、という各個人の持つ生理学的感度および心理学的感性に左右される論議と、その集約としての最終判断に迫られる。一例を挙げれば、「地球温暖化」の問題がある。環境問題では, やっかいなことに、個々の損得が大いに絡むから、純然たる科学上の論議にはどうしても収まりきれない。道理で、2007年ノーベル平和賞受賞の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC))が格好の批判対象になっている。

最近の英国科学雑誌ネイチャー誌 (2010年10月21日)上で、「The balance of probabilities」と題する編集者論説が目についた。一瞬、数千年の時を超えて、孔子の声を聞いたかと思った。英国公共放送(BBC)、IPCC、および、米国連邦情報局(CIA)の三者間で何が共通か、と云う問いかけで始まるこの一文は大変示唆に富んでおり,面白い。 IPCCの試みた「不確定性の定量化」が,科学報道や情報分析の難しさにも共通する点を思い起こしつつ、より正確な言葉を使う必要性を訴えている。表現形としては有り得ても、意味を持たない「could, suggest & may”などの「だまし言葉」は避けるべし、という。私には耳の痛い話である。同論説は次の一文で終わっている:「The world is an uncertain place, but scientific findings can be virtually certain,likely,improbable or highly doubtful. Take your pick.」

ずっと以前に、論文原稿を書く際に役立てようと、比較形容詞・副詞表をつくり始めました。勿論未完成ですが、皆さんのご意見を伺う為に,ここに付け足します。どう思われますか?
[本来なら,ここでは英語ではなくて日本語の比較表をつくるべきなのですが、過去5百年間の世界歴史展開の結果、各自の個人的心情・好み・思想は別として、今の世の中では分野を問わず、広く且つ有効に自分の考えを伝えるには英語が最適で、それに代わるものがありません。因みに、ダライ・ラマ14世は英語をよく話します。いつぞやの米国神経科学学会年次総会で,内省と認識・意識についての講演を聴きました。]

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RANK ORDER OF LIKELINESS OF AN EVENT IN DAILY LIFE
(In an increasing order of its estimated probability)

Modifiers  Estimative probabilities (qualitative value judgment)
=============== ============================================ 
Never ≤0
No chance ~0

Highly doubtful* ≤1/10
Least likely ~1/10
Less likely 1/10<but<1/3
Improbable* / Unlikely ~1/3

Possible /Feasible /Practical /Achievable ~1/2 or less
More or less / Chance ~1/2
Maybe / Perhaps /Conceivably > 1/2 but < 2/3

Likely / Probable ~2/3
Plausible / Seemingly reasonable /
Believable / Credible
≥2/3

Highly likely ~4/5
Most likely ~9/10
Virtually certain* > 9/10
Certain / Sure / Beyond doubt 9/10 < but < 95/100
True /Accurate /Exact 5/100 < but < 99 /100
Absolutely true ~100

* added to the above list based on an editorial, “The balance of probabilities” (Nature 467, 21 Oct 2010).

   
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